若者の間で流行している「チル」は競争社会に生きる現代人の渇望か?
どうも、Boiです。
本日は若者の間で流行している「チル」について掘り下げていきます。
日本におけるキーワード「チル」の検索需要推移をGoogleトレンドでみると、2019年頃から徐々に検索量が伸びていることが分かります。「チル」は英語圏発祥の言葉ですが、なぜ英語圏で流行してきたのか、そしてここ5年でなぜ日本でも流行しているのかを説明します。
そして、流行の根底にあると考えられる競争社会との関連性について考えてみようと思います。
■日本における2015年5月~2024年4月のキーワード「チル」の検索需要推移(参照:Googleトレンド)
「チル」とは何か?
「チル」の意味
「チル」という言葉は、英語の「chill」から来ています。
「chill」には元々「冷やす」という意味がありますが、スラングとして使われる場合は「リラックスする」「落ち着く」「のんびりする」という意味になります。これが日本語に取り入れられ、「チルする」「チルってる」などの表現で使われるようになりました。
英語圏における歴史的背景
- 20世紀初頭: 20世紀初頭から中期にかけて、「chill」はスラングとして使われ始めました。この頃には「冷静になる」「落ち着く」といった意味合いが加わり、特にアメリカの若者文化の中で広まっていきました。
- 1960年代 – 1980年代: ヒッピー文化やカウンターカルチャーの影響で、「chill out」というフレーズが生まれ、「リラックスする」「くつろぐ」という意味で使われるようになりました。
- 1980年代後半 – 1990年代: 電子音楽の一部として「Chillout 」というジャンルが確立されました。クラブやレイヴ文化の中で、激しいダンスミュージックの後にリラックスするためのスペース(チルアウトルーム)が設けられることが一般的になりました。この頃から、「chill out」というフレーズが広く浸透し、リラックスした音楽ジャンルとしても認識されるようになりました。
- 2000年代 – 2010年代: インターネットの普及とともに、「chill」という言葉はさらに広がりを見せました。特にSNSの登場により、日常のリラックスした瞬間を共有する文化が形成され、「chill」の意味も多様化しました。YouTubeやSpotifyなどで「chill music」や「lo-fi hip hop」などのプレイリストが人気を博し、リラックスできる音楽の代名詞としても使われるようになりました。
- 現代(2020年代): 現代では、「chill」は多様なシチュエーションで使われる言葉として定着しています。リラックスすることだけでなく、穏やかな態度や雰囲気を表現するためにも使われます。また、日本などの非英語圏でも、「チルする」などの形で取り入れられ、広く使われるようになっています。
「チル」の流行の理由
1. ストレス社会におけるリラックスの重要性
現代社会は、仕事や人間関係などでストレスが多い環境です。こうした中で、「リラックスすること」「自分の時間を持つこと」の重要性が見直されてきました。忙しい日常の中で、気軽に「チルする」時間を持つことが、一種のセルフケアとして受け入れられたのです。
2. SNSとデジタルメディアの影響
SNSの普及も大きな要因です。InstagramやTwitter、TikTokなどのプラットフォームで、ユーザーが「チル」な時間を共有することがトレンドとなり、ハッシュタグ「#chill」や「#チル」を付けて投稿することが流行しました。また、YouTubeでは「lofi hip hop radio – beats to relax/study to」のようなチルアウト音楽のライブストリームが人気を博し、リラックスしたいときに手軽にアクセスできるコンテンツが増えました。
3. 音楽とエンターテインメントの影響
音楽のジャンルとしての「チルアウト」や「ローファイ・ヒップホップ」の人気も無視できません。これらの音楽は、リラックスや集中を促すBGMとして多くの人に利用されています。特に、YouTubeやSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスのプレイリストが普及し、簡単に「チル」な音楽を楽しむことができるようになったことが、その人気を後押ししました。
4. 新しいライフスタイルの提案
「チル」という概念は、ミニマリズムやスローライフといったライフスタイルの流行とも関連しています。これらのライフスタイルは、シンプルでストレスの少ない生活を提案し、「今この瞬間を楽しむ」ことを重視しています。物質的な豊かさよりも、心の豊かさを求める風潮が広がる中で、「チル」という言葉が自然と受け入れられ、流行するようになりました。
5. 多様なシチュエーションへの適応性
「チル」という言葉の魅力は、その柔軟性にもあります。リラックスした時間を過ごすこと全般を指すことができるため、友人との時間、音楽を聴く時間、一人で過ごす時間など、さまざまなシチュエーションで使える便利な表現として定着しました。
なぜ日本では「チル」が2020年代に流行したのか
「チル」という言葉が日本で2020年代に流行した背景には、いくつかの要因があります。それらは文化的な背景、メディアやエンターテインメントの影響、インターネットとSNSの普及、そしてコロナウイルスのパンデミックです。それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。
1. 文化的背景の違い
日本では、長い間、勤勉さや努力を重視する文化が根強く、リラックスや休息を取ることが推奨されることが少ない環境でした。特に高度経済成長期以降、仕事や学業に対する高い要求が社会全体に浸透しており、「リラックスする」ことが一般的な価値観として受け入れられにくい状況が続いていました。これにより、「チル」という概念が広まるのに時間がかかったと考えられます。
2. メディアやエンターテインメントの影響
欧米では、ヒッピー文化やカウンターカルチャー、1990年代のレイヴ文化など、リラックスや自由な時間を楽しむムーブメントが早い段階で広まりました。これに対して、日本ではこれらの文化の影響を直接受ける機会が少なく、メディアやエンターテインメントを通じて「チル」の概念が浸透するのに時間がかかりました。しかし、近年ではグローバル化が進み、海外のライフスタイルや文化がより身近なものとなったことで、「チル」も徐々に認知されるようになりました。
3. インターネットとSNSの普及
2000年代以降、インターネットの普及により情報や文化が国境を越えて広がりやすくなりました。特に2010年代に入ってからは、SNSの影響力が強まり、若者を中心に海外のトレンドが迅速に共有されるようになりました。YouTubeやInstagram、Twitterなどのプラットフォームで「チル」に関連するコンテンツが多くシェアされることで、日本でも「チル」が一般的な概念として受け入れられるようになりました。
4. コロナウイルスのパンデミック
コロナウイルスのパンデミックにより、多くの人々が在宅勤務やリモート学習を余儀なくされ、自宅で過ごす時間が増えました。これにより、リラックスした時間を求める傾向が強まりました。長期間の自粛生活や不安定な社会状況の中で、メンタルヘルスの重要性が再認識され、ストレスを軽減するために「チル」が注目されました。また、NetflixやYouTube、Spotifyなどのデジタルコンテンツが大いに利用され、「チル」な音楽や映像が多くの人々に楽しまれました。
「チル」は競争社会に生きる人々の渇望か?
ここまで「チル」の流行について取り上げてきましたが、流行の根底にあるのは経済成長を促している競争社会への反作用なのではないでしょうか。上述の通り、アメリカでは1960年代以降の激動の経済成長と共に「チル」の概念も発展しています。経済の成長には競争社会は不可欠ですが、人々はその反作用としてのストレスを感じており、それをエスケープさせる手段として「チル」という概念が受け入られきたのだと思います。「チル」という概念自体が多様化しておりますが、競争社会の反作用としてのストレスからエスケープする手段は今後ますます重要視されていくでしょう。そして、それが更なる経済成長の足枷ではなく、後押しになるのではないでしょうか。